マイクロ法人と個人事業主を同時に走らせる「二刀流」。始める前にいちばん知りたかったのは、「実際にやってみたら、何がどう変わるのか」というリアルな話でした。制度の説明は調べれば出てきますが、1年やってみた人の手応えは、なかなか見つからなかったからです。
私はマイクロ法人を2024年12月、個人事業を2025年2月に立ち上げ、ちょうど法人は2期目、個人事業は2年目に入りました。つまり「1年目」はすでに走り切ったので、数字も手応えも実データで振り返れます。
結論から言うと、1年目で起きた変化はこの3つでした。
- 役員報酬を月54,000円に設計して、この給与部分には所得税・住民税が一切かからないようにできた
- 2期目の54,000円設計は、令和7年分以後の給与所得控除最低額65万円を前提にしています。
- 青色申告65万円控除・小規模企業共済・iDeCoをフル活用して、課税される所得を大きく圧縮できた
- お金の数字よりも、「税務を自分で回せるようになった」という変化のほうが大きかった
派手な節税テクニックの話ではありません。地味な手続きをコツコツ積んだ1年の、正直な記録です。
この記事は、二刀流戦略をまとめたマイクロ法人と個人事業主の二刀流とは?の「実践1年目」編です。なぜ二刀流なのか、という設計思想から知りたい方は、先にそちらをどうぞ。

そもそも、なぜ「二刀流」だったのか
きっかけは節税ではなく、50代に入って「残り時間」を意識し始めたことでした。
会社員を続けても給与は頭打ちで、新しい技術を覚えるのにも以前より時間がかかります。健康でいられる時間は無限ではありません。そう感じたとき、「会社の評価軸の外で、自分の裁量でお金と時間を組み立て直したい」という気持ちが強くなりました。家族の事情で将来の住まいを考える必要が出てきたことも、後押しになっています。
そこで選んだのが、個人事業で収入を作り、マイクロ法人で社会保険と税を最適化するという二刀流の形でした。
- 個人事業:現役SEとしての業務委託収入を、青色申告でしっかり経費・控除を効かせて受ける箱
- マイクロ法人:役員報酬を低めに設計し、社会保険料を抑えつつ、資産運用や経費按分の受け皿にする箱
「片方だけ」ではなく「両方を組み合わせる」ことで、社会保険料・税金・将来の出口戦略のそれぞれで、ひとり分の最適化ができる ── これが二刀流に踏み切った理由です。
1年目にやった「地味だけど効いた」実務
1年目の実態は、華やかな経営判断ではなく、期限のある手続きを淡々とこなす作業の連続でした。やってみて「これは効いた」と思えた実務を4つ挙げます。
① 社会保険を法人で新規適用する
マイクロ法人で役員報酬を設定したら、まず年金事務所での社会保険の手続きが必要になります。私は役員報酬を決めたあと、健康保険・厚生年金保険の新規適用届と被保険者資格取得届を準備して、年金事務所の窓口へ行きました。
ここが二刀流のいちばんのキモです。国民健康保険・国民年金ではなく、法人の社会保険に入ることで、私の場合は低い等級で健康保険・厚生年金を確保できました。この保険料が下がる仕組みそのものはなぜマイクロ法人だと社会保険料が下がるのか?で詳しく解説しています。手続き自体は窓口で30分ほど、未記入箇所を補いながらほぼその場で完了しました。後から知ったのですが、電子申請(GビズID)でもできたようです。

役員報酬をいくらに設定すべきかは、社会保険料に直結します。詳しくはマイクロ法人の役員報酬はいくら?私が54,000円にした2つの理由にまとめています。

② 毎月、月次決算を回す
法人の会計(私はfreeeを使っています)は、毎月締める習慣を1年目から作りました。家賃・光熱費・通信費といった経費を月末に処理して、月次で数字を確定させます。地味ですが、これをためると決算前に地獄を見ます。
実際、振り返ると毎月の月次決算を1年間落とさず続けられたことが、確定申告と法人決算をスムーズにした最大の要因でした。
法人はfreee、個人事業はマネーフォワードと使い分けています。理由はfreeeとマネーフォワードを両方使って比較に書きました。

月次決算を「ためたら負け」を合言葉に1年間どう回したか、そのときの心境やつまずきはnoteにまとめました。

③ 初めての確定申告を、青色申告65万円控除で自力でやる
個人事業の確定申告は、マネーフォワードで記帳 → 国税庁のe-Taxで申告という流れで、税理士に頼まず自力でやりました。青色申告特別控除の65万円は、複式簿記+電子申告の条件を満たせば受けられます。
最初は仕訳でつまずきましたが、1年分を自分で通してみると、お金の流れが手に取るように分かるようになりました。この「自分で全部やる」が、後述する最大の収穫につながります。
青色申告65万円控除を税理士なしで申告する具体的な手順は青色申告65万円控除を自力でやるにまとめています。

④ 節税制度を1年目から仕込む
二刀流の効果を最大化するために、1年目から使える制度はひととおり仕込みました。
| 制度 | 私の使い方 | 効果 |
|---|---|---|
| 青色申告特別控除 | 複式簿記+e-Taxで申告 | 所得から65万円控除 |
| 小規模企業共済 | 個人事業主として加入 | 掛金が全額所得控除(年最大84万円) |
| iDeCo | 厚生年金被保険者の上限で拠出 | 掛金が全額所得控除(月23,000円) |

これらを重ねると、課税対象から差し引ける控除・経費は年間で数百万円規模になります。「払う前に、合法的に置き場所を変える」イメージです。個人事業側でどの控除から手をつけるかの全体像は個人事業主の節税、何から手をつける?に整理しています。

2年目以降、私は経営セーフティ共済に加入しました。経営セーフティ共済は、事業を1年以上継続していることが加入条件の一つです。そのため、1年目では加入できず、2年目に入ってすぐ申し込みをしました。経営セーフティ共済の出口設計は経営セーフティ共済の「40か月ルール」とは?で詳しく解説しています。

数字でどうなったか
1年目の手応えを、実際に効いた数字で示します(売上や税額そのものは控えますが、構造の数字は具体的に出します)。
役員報酬54,000円という設計
役員報酬は、1期目は月45,000円、2期目から月54,000円に設定しています。なぜこの金額かというと、給与所得控除の最低額(令和7年分以降は65万円)の枠内に年間の役員報酬を収めるためです。
- 役員報酬:月54,000円 × 12か月 = 年間648,000円
- 給与所得控除(令和7年分以降の最低額):650,000円
- → 給与所得は0円(この役員報酬部分には所得税・住民税がかからない)
- 法人側:役員報酬は損金になるので、法人税も軽くなる
- 社会保険:最低等級を維持
ここで注意したいのは、ゼロになるのはあくまで「役員報酬(給与)の部分」だけだということです。個人事業の事業所得には、別途しっかり所得税・住民税がかかります(私も予定納税や住民税を納めています)。「給与所得を0円に抑えつつ、社会保険を最低等級で確保する」 ── これが役員報酬を低く設計する狙いです。

1期目の45,000円から54,000円に上げたことで、社保の負担を最低等級に保ったまま、法人の損金を年6万円ほど増やせました。「役員報酬を上げて節税する」という、会社員時代には逆に見える動きができるのが法人の面白いところです。
控除のフル活用で「課税所得を圧縮する」
個人事業のほうは、青色申告65万円+小規模企業共済+iDeCoだけでも、年間で約180万円分の控除になります。さらに2年目以降、経営セーフティ共済を必要経費として乗せれば、課税される所得はぐっと下がります。
私の場合、現役SEとしての業務委託収入はそれなりにありますが、これらの制度を重ねることで、課税ベースを大きく削りながら、削ったお金は共済や年金として自分の将来に積み上がっていく構造を作れました。単純に税金が減るだけでなく、「経費・控除にしたお金が消えずに残る」のがポイントです。
想定外だったこと・面倒だったこと
正直に、つまずいた点や「思ったより面倒だった」ことも書いておきます。
社会保険の通知書まわりも地味に手間でした。保険料の納付書はバーチャルオフィス経由で自宅に転送され、法人口座のPay-easyで納付します。最初こそ戸惑いましたが、慣れれば月次のルーティンに収まります。


月次決算は「ためたら負け」です。毎月コツコツやれば各回は短時間で終わりますが、数か月ためると一気に重くなります。1年目で「毎月締める」習慣を作れたかどうかで、2年目以降の楽さがまるで変わると実感しました。この実感の詳細ついては、noteの記事にまとめています。

お金以外で変わったこと
数字の話をしてきましたが、1年目でいちばん大きかった変化は、お金そのものではありませんでした。
それは、税金と社会保険の仕組みを「自分で回せる」ようになったことです。
私は顧問税理士をつけず、法人決算も確定申告も各種届出も、すべて自力でやっています。最初は調べながらで時間もかかりましたが、1年通してやり切ると、役員報酬・社会保険・控除・経費按分が、自分の手の内の道具になりました。これは会社員のままでは絶対に手に入らなかった感覚です。
そしてもうひとつ。FIREに必要な資産ラインを、すでに超えていることを、数字を自分で管理する中で実感できました。もちろん、ここに来るまでには40代からの資産形成の積み上げがありました。二刀流は一発逆転の仕組みではなく、積み上げてきた資産と時間を守る仕組みだと感じています。二刀流は「もっと稼ぐ」ための仕組みというより、手元の資産と時間を、自分の裁量で守り・最適化していくための仕組みだと、1年やってみて腑に落ちました。
まとめ
- マイクロ法人+個人事業主の二刀流は、1年目から「役員報酬の設計」「社会保険料の抑制」「控除の活用」で、はっきりした効果が出る
- 派手な裏技ではなく、月次決算・確定申告・各種手続きという地味な実務の積み重ねが土台になる
- 最大の収穫は数字ではなく、「税と社保を自分で回せる」という、一生使えるスキルが手に入ったこと
これから二刀流を考えている方は、「完璧な計画」より「まず1年走り切る」ことをおすすめします。1年分の実務を通すと、制度が一気に自分のものになります。
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参考(公的機関の一次情報)
- No.1410 給与所得控除(国税庁タックスアンサー)
- No.2070 青色申告制度(国税庁タックスアンサー)
- 小規模企業共済(中小機構)
- 経営セーフティ共済(中小機構)
- iDeCo(イデコ)公式サイト(国民年金基金連合会)
- 健康保険・厚生年金保険の適用(日本年金機構)
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