千葉県から大分県へ移ったとき、住まいの内見は1回しか行けませんでした。片道で飛行機とレンタカーが要る距離です。「気になるから、もう一度見に行こう」とはいきません。
移住の全体像は「52歳・独身が法人名義で地方に移住した」にまとめました。この記事では、その中の内見の工程を掘り下げます。現地1回で申し込みまで決めるために、何を準備し、当日に何を確かめ、決めきれなかったことをどう処理したかを、実際に使ったチェックリストと一緒に紹介します。

遠方の内見は「1回で決める」前提で準備する
移住先の街は、9つの物差しで候補地を外していく形で決めました(移住先の選び方|9つの物差しで候補地を外していった50代の記録)。街が決まれば、次は部屋です。

遠方の内見で大事なのは、現地に行く前に、ほとんどの判断を済ませておくことでした。私が内見までにやったことは次の3つです。
募集図面と室内写真を見て、良い点と気になる点を先に書き出しました。眺め、明るさ、間取り、収納、キッチンの広さなどです。
現地では「写真で気になった点が本当に問題か」を確かめに行くだけにしておくと、当日の頭の使い方がまるで違います。
内見の3週間ほど前に、確認項目をカテゴリ別にまとめました。中身は次の章で紹介します。
最初の問い合わせの時点で「法人契約できます」と回答をもらい、申し込みに必要な書類(保証会社の申込書・個人情報の同意書・3か月以内の履歴事項全部証明書)も教わっていました。おかげで、当日その場で申し込めています。法人名義で住まいを借りる理由は『マイクロ法人と個人事業主の「二刀流」とは?』で書いています。

もうひとつ、仲介業者に教わったことがあります。私が内見した7月は、不動産があまり動かない時期だそうです。繁忙期の春なら、遠方で迷っているあいだに他の人に決まってしまうこともあります。時期を選べるなら、閑散期に内見するのは遠方の人ほど有利だと思います。
内見チェックリスト(カテゴリ別)
確認する項目は、暮らしの核・在宅ワーク・寸法・最上階・設備・周辺環境・ハザード・持ち物の8つに分かれます。私が実際に使ったリストを、他の人にも使える形に整えたものです。★は、私が実際に確かめてよかった、または見落として後悔した項目です。
暮らしの核になる項目(人によって違う)
私の場合は趣味の天体観測なので、ベランダが最重要でした。ここは読者ご自身の「これだけは譲れない」に置き換えてください。
- ★ベランダの方角をスマホのコンパスで実測する
- ベランダの広さ、手すりの高さと構造(格子で視界が隠れないか)
- 視界に電線がかからないか、周りの街灯は明るすぎないか
- ベランダにコンセントがあるか
方角は、思い込みが外れやすい項目です。私は写真と図面から「南向き」だと思っていましたが、コンパスで測ると南東向きでした。午後の西日が当たらないので夏は思ったより楽そうだ、と判断が一段具体的になりました。
在宅ワーク・電気
- 光回線の方式(光配線か、VDSLか。VDSLだと速度が落ちやすい)
- 光回線の引き込み口の位置
- ★携帯電話の電波を室内で実測する(スピードテストのアプリで十分)
- コンセントの位置と数、契約アンペア、分電盤
携帯の電波は、引っ越してから固定回線が開通するまでのつなぎになります。私の部屋では室内で35〜40Mbps出ていたので、開通までの数日もネットに困らずに済みました。
寸法
- 長さの入った図面をもらう(なければメジャーで実測)
- ★ドアの下のすき間(床に敷くものと干渉しないか)
- ★洗濯機の防水パンの内寸、排水口の位置
- 巾木の高さ(家具を壁にぴったり付けられるか)
- エレベーターの大きさ(大型家具・家電が載るか)
- キッチンの調理スペース、収納の実寸
防水パンは、私が内見で確かめそびれた項目です。あとから入手した施工図で幅は分かりましたが、奥行きは読み取れず、契約日に測る項目に回しました。ドラム式洗濯機を置けるかが、ここで決まります。
施工図は、こちらから頼まないと出てこないことがあります。あるとないとでは事前準備の精度がまるで違うので、仲介業者に一度聞いてみることをおすすめします。

最上階・上層階の特性
私が借りたのは最上階の部屋です。天体観測のために、上に視界を遮るもののない階を選びました。ただ、最上階には最上階ならではの確認点があります。上層階を検討している方にも当てはまる項目です。
- 夏の暑さ(屋根からの熱)、エアコンの能力
- 水圧(シャワーと蛇口を実際に出してみる)
- ★天井のシミや雨漏りの跡
最上階は、屋上の真下です。雨漏りがあれば真っ先に影響を受けるので、天井は必ず見上げてください。
設備
- エアコンの台数と製造年
- 給湯器の種類と製造年
- ★エアコンが「設備」か「残置物」か
- スマートロック・鳥よけネットを付けてよいか(貸主の許可)
- 建具の動作(ドア・ドアストッパー・網戸)
エアコンの扱いは、契約前に必ず確かめたい点です。「設備」として契約に含まれていれば、賃借人の責任による故障などを除き、使用に必要な修繕は原則として貸主側の負担です。一方、残置物は貸主の修繕・交換対象外とされていることがあるため、契約前に扱いを確認しておく必要があります。私の部屋のエアコンは10年以上前のものでした。交換できるか聞いてみましたが、まだ使えるので難しいとのこと。それ以上は求めませんでした。設備なので、壊れたら貸主の負担で直してもらえる、と割り切っています。
周辺環境
- 匂い(風向きや天気で強くなるものがないか)
- 鳥(ベランダのフン害)、虫
- 騒音(道路、電線の近さ)
- ゴミ出しのルール、宅配ボックス、オートロックの動作
- ★告知事項(その部屋や建物で過去に事故がなかったか)
告知事項は、事前に自分で調べてから、内見で自分から聞くのがおすすめです。国土交通省のガイドラインでは、賃貸物件で自然死等以外の死があった場合や、特殊清掃が行われた自然死等については、概ね3年が経過すると原則として告知不要とされています。ただし、事件性や社会的影響が大きい場合、借主から事案の有無を尋ねられた場合などは、期間にかかわらず告知が必要です。過去の事案を重要視するなら、自分から確認しておく必要があります。
私は事前に事故物件の情報サイト(大島てる)を確認したうえで、内見ではサイトのことには触れず、「この建物で過去に何かありましたか」とシンプルに聞きました。サイトの情報は投稿がもとなので、正確とは限りません。仲介業者にも確認し、複数の情報を判断材料にしました。
ハザード
- ハザードマップで浸水想定を確認する
- 駐車場の位置(車が浸水域に入らないか)
- 建物の電気設備の位置(低い階にあると、浸水で建物全体が停電することがある)
ハザードは、国土交通省の「ハザードマップポータルサイト」で事前に確認しておき、現地では地形と駐車場を目で見て答え合わせをしました。
持ち物
- メジャー(5m以上)
- スマホ(写真、コンパス、スピードテスト)
- 方眼メモかタブレット(間取りのスケッチ用)
- 申し込み書類(本人確認書類、法人名義なら履歴事項全部証明書)
※必要書類は物件・保証会社によって異なるため事前確認
内見で見つかった問題は「仕分け」して判断する
チェックリストを持って行っても、問題が出ない部屋はまずありません。私の内見でも、気になる点は7つ出てきました。匂い、周辺の落ち着かなさ、虫と暑さ、ベランダの鳥のフン、室内の汚れ、契約前に確かめておく事項、入居時の傷の記録です。
いちばん気になったのは匂いです。仲介業者からデメリットとして、「風の強い日や湿気の多い日には、外から嫌な匂いが入ってくることがある」と先に教えてもらっていました。内見の日、物件では気になりませんでしたが、たまたまその日がそうだっただけかもしれません。どのくらいの頻度で、どの程度なのかは、1日いただけでは分かりません。
7つ並ぶと、申し込むのをためらいます。そこで、問題を3つに仕分けし、あわせて好材料も書き出しました。
| 分類 | 中身 | 扱い方 |
|---|---|---|
| 本当に効く懸念 | 匂い、周辺の落ち着かなさ | 住んでみないと分からない。実際に暮らして見極める |
| 対策で消える手間 | 虫・暑さ、鳥のフン、室内の汚れ | お金と手間で吸収できる |
| 手続き・証拠で守るもの | 契約前に確かめておく事項、入居時の傷 | 契約前の確認と、入居時の写真で守る |
| 好材料 | 眺めと日当たり、クロスの張り替え(交渉で貸主負担に) | プラス要素 |
こうして並べると、7つのうち5つは、対策で消えるか、手続きで守れるものでした。判断を本当に左右するのは匂いと周辺の落ち着かなさの2つだけです。しかもその2つは、内見の1日では分からないものでした。
ここで、申し込むかどうかの考え方が変わりました。千葉の部屋はすぐには解約せず、しばらく二重に借りる予定でした。合わなければ戻る道が残っています。それなら「分からないものは、住んでから確かめる」でいい。そう決めて、その場で申し込みました。
入居時の傷や汚れは、入居したらすぐに日付入りで写真を撮り、管理会社の現況確認書と合わせて残しておくと安心です。国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」も、入居時の状態を確認しておくことを勧めています。
決めきれなかった実測は、契約日に回す
内見1回で「申し込み」は決められても、細かい「実測」まで終わらせるのは無理でした。そこで、内見の日は判断、契約の日は実測と役割を分けました。
契約の日に部屋を測らせてもらえるかは、口約束で済ませず、事前にメールで確認しています。返信で「どうぞ」と返ってくれば、記録として残るからです。
契約の日には、内見で残した項目をまとめて確かめました。そのうち、主なものを抜き出します。
| 確認項目 | 結果 | その後 |
|---|---|---|
| ベランダの方角 | 南東向き(コンパスで実測) | 「南向き」の思い込みを訂正 |
| ドアの下のすき間 | ジョイントマット(10mm)がつかえる | 床には何も敷かないことにした |
| 携帯の室内速度 | 35〜40Mbps | 固定回線までのつなぎに十分 |
| エレベーター | 奥行きのあるタイプ | 家具・家電の搬入は全部通る |
| 巾木の高さ | 6.5cm | 家具の配置に反映 |
| 天井のシミ | なし | ― |
| スマートロック・鳥よけネット | どちらも設置可 | 入居後に導入 |
| ドアストッパー | 動作不良 | 貸主に修理を依頼 |
ドアの下のすき間は、測っていなければ失敗していた項目です。床にジョイントマットを敷く予定でしたが、厚みがドアにつかえると分かり、マットそのものをやめました。買ってから気づいていたら、そのまま無駄になっていたはずです。
チェックリストの「✅」に数字を添える
もうひとつ、あとから気づいたことがあります。チェックリストに✅を付けていたのに、数字や根拠が書いていない項目がいくつかありました。エレベーターの大きさがそうで、「確認した」という記憶はあっても、何cmだったかは残っていませんでした。
確認した項目には、✅の横に数字か根拠を一言添えておく。見返したときに、本当に確かめたのか、確かめたつもりなのかを見分けられます。遠方の内見は二度目がないぶん、記録の残し方がそのまま家具選びや搬入の精度になります。
まとめ:判断は現地で、確かめられないものは住んでから
遠方の内見を1回で決めるために、私がやったことは次のとおりです。
- 写真と図面で所見を書き、現地では答え合わせだけにする
- カテゴリ別のチェックリストを作り、コンパス、メジャー、スピードテストで実測する
- 見つかった問題を仕分けし、本当に効く懸念だけに絞る
- 内見の日は判断、契約の日は実測と役割を分ける
- ✅の横に数字を残す
内見で分からなかった2つの懸念のうち、匂いは、雨のあとなどに風に乗って届くことがあると聞いていました。入居してから雨の後の様子を何度か確かめましたが、体感できるほどのものではなく、今は安心しています。周辺の落ち着かなさも、暮らしてみると許容範囲でした。
内見は満点の部屋を探す場ではなく、「住んでから確かめればいいもの」と「今決めなければならないもの」を分ける場だったと思います。
内見の次は、法人名義での契約です。その工程も含めた移住全体の流れは「52歳・独身が法人名義で地方に移住した」にまとめています。

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参考(公的機関の一次情報)
免責表記
本記事は私自身の賃貸物件探し・内見の体験をもとにしたものです。必要書類、設備の修繕負担、告知事項、契約条件などは物件・貸主・管理会社・保証会社によって異なります。契約前に仲介業者・管理会社等へ確認してください。

